保健室の一番窓側のベットは風当たりがいい。
サボるときには絶好のポイントだ、いつかドンへがそう言っていたことを思いだす。



カーテンに囲まれたベットの中、そこにあったのは、女神のような微笑み。






―ヴィーナス―








次の時間は国語。国語のジョンス先生のことは嫌いじゃないけど、
やたらと俺を指してくるから苦手だ。
その次の時間は科学。科学のヒチョル先生は弄ぶみたいに俺に絡んでくるから苦手。

結局好条件がそろってしまえば、俺の思考は授業に参加するなんてことには回らない。
むしろ、前にドンへが教えてくれたことを試すいい機会にすらなってくれる。


俺は一時限目終わりの休み時間、ずるー、なんてうだうだと文句を言うドンへを一睨みして教室を出る。
向かう先は保健室。一番窓際のベット。
うちの学校は進学校だから、さすがに一時限目からサボる人間はいないだろう。
いるとすれば奇跡的に入ったとしか言いようがないドンへか、
サボるのに高得点を取る俺か、二択しかない。



「しつれーしまーす…」



やけにココだけ古びている保健室の引き戸を引く。
ふわりと香る保健室特有の消毒液の匂いと、えぐみのあるような学校の匂いが広がって、俺は反射的に顔を顰める。


どうやら保健医はいない。
そして人の気配もしないから、窓際ベットは難なく手に入りそうだ。



「っと…窓際は…」




カーテンで区切られているいくつかのベットを通り過ぎて、俺は窓際ベットのカーテンに手をかけた。
そよそよと柔らかい風がカーテンの隙間から流れ込んで、俺は勢いよくカーテンを開けた。




「…………ッ、は!?」




思わず素っ頓狂な声を上げてしまって、俺は手のひらで口を押えた。

だって、だって。
ベットの上には人。それも…上半身裸の。
いや、上半身しか見えていないから分からないけど、もしかしたら全裸…かもしれないし。

小柄な男子生徒みたいだけれど、はっきり言って見覚えがない。
制服のネクタイがないから学年も分からないし、いや、それ以前に、ちゃんとうちの学校の生徒だろうか。




「……んー…」

「ッ!!」



もぞもぞと陽を浴びて男が寝返りを打つ。
俺がただそれを眺めているしかできないでいると、男の瞼がゆっくりと上がった。



「んー…あ、れ…?」

「え、あ、あの、」

「んぅ…きみ、だれ…」

「あ、えっと、俺…」



どうしようと戸惑う俺を、彼は内心興味がなさそうに見つめる。
どうやら裸なのは上半身だけなようで、タオルケットからは制服のズボンが覗いている。

あまりにもじっと見つめられるものだから、俺は視線をすっとずらした。
すると自然にも視界に入ったのは、白く滑らかな腹筋。

…男にしては女みたいだ、一瞬そうも思ったけれど、その肌があまりにも白くて艶やかで、
こんなの女以上なんじゃないかとも思った。



「きみ、一年、だよね?」

「あ、はい…」

「ふーん…一年でサボっちゃうんだ」

「え、と…授業なら、聞かなくても分かるし…」




俺の言葉に、彼はふふっと微笑んだ。
その顔があまりにも綺麗で、まるで時が止まったかのように、俺の体は自由を失う。



「ま、いいんじゃない、別に。僕はもう戻るから。」



そういってもう一度微笑んだ彼は、するりとベットを抜け出す。

…どうしよう。これじゃあサボりどころではない。





ドンへになんて説明しよう。


俺、保健室で天使に出会いました、かな。









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