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あれからずっと彼を探しているのに、一向に見つかる気がしない。
この学校の生徒で、先輩であることに間違いはないはずなのに。
何度保健室に足を運んでみてもダメだったし、ああ、名前くらい聞いておけばよかった。



「キュヒョナー!今日カラオケよってかえろ!!」

「……」

「きゅーひょーなー!シウォナも誘ってカラオケ!」

「………」

「……なぁーに色恋沙汰に目覚めちゃってさ。」

「!?はぁ!??」

「ふふっキュヒョナ分かりやすー!」

「……どこでそんな言葉覚えてくるわけ?」

「なっ!失礼な!そのくらいはわかる!!」




やけにむきになったドンへの頭から、カラオケの四文字がどうやら消えているようでほっとする。
今日の放課後だって、彼を探すという予定でいっぱいなんだ。ドンへにかまっている暇はない。


未だにぶつぶつと文句を言っているドンへをよそに、俺はチャイムが鳴ると一目散に教室を飛び出る。

一昨日は三年教室を探して、昨日は二年教室を探した。
あとはもう個々を探すしかない。さて、どこから探せばいいんだろうか。



「あーもう…」



本当に、あの時名前を聞いておけばよかったと思う。というか、後悔する。
こういうことに対しては鈍感でも奥手でもないのに、どうしてなんだろうか。



俺は小さくため息を漏らして、ずるずると足を引きずるように保健室へと向かった。




 *******




保健室の引き戸を引く。いつもより重たい気がしたのは、重たい気持ちのせいなのだろうか。


やっぱり今日も保健医がいない。そして人の気配も…今度こそ、ない。
此処が云わば切り札だったのに。それでももう重たい気持ちが持ち上がる気配はなくて、
俺は仕方がなく一番窓際のベットに腰を下ろした。



「………あ、れ…?」




暫くぼんやりと天井を眺めていると、遠くから、いや、保健室の外から話し声が近づいてくる。
や、別に何かいけないことをしているわけではないのだけれど、
俺は反射的にベットにもぐりこんだ。

それから程無く引き戸が引かれて、話し声がしっかりと耳に届いた。




「あのなぁ、お前、たまには学校こないと留年するぞ」

「別にー。留年したって関係ないよ。ヒョンが勉強教えてくれるんだし。」

「ったく…俺だって暇じゃないんだよ。分かるか?」

「んー…よくわかんない。」



ゴクリ、と生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。

ずっとずっと探していた声。彼だ、彼に違いない。
そして彼と会話を投げ合うこの声は…何度となく俺に向かって質問を放り込む、ヒチョル先生。

なんで二人が一緒にいるんだろう。学校に来ないって何。
〝先生〟じゃなくて〝ヒョン〟ってどういうこと。ああ、やっと見つけたのに…。




「あーあ、ヒョン、今日もジョンスヒョンに逃げられちゃったねぇ」

「……うるせー」

「今日で何日目?ジョンスヒョン絶対ヒョンの気持ちに気づいてないよね」

「……うぜー」

「ね、慰めてあよっか?」




その時、ちゅ、と可愛らしいリップ音が部屋中に甘ったるい空気を残して響く。
何が起こったか訳が分からなくて、俺はただベットのシーツを痛いくらいに握りしめた。



「……お前、こういうこと学校ではやめろよ…」

「なんでー?いいじゃん、学校でするの、初めてじゃないし。」

「俺の気持ち知ってるだろ。だから、」

「もう終わりにしよう、って?」

「……ッ…」

「ばかだなぁ、ヒョン。ヒョンだって僕の気持ち知ってるくせに。」

「おま、」

「『お前』じゃないよ。ソンミンって名前があるんだから。ねえ、ヒョン、そう呼んで。」

「…な、に、」

「それとも、ジョンスヒョンのこと好きだから呼べない?
僕がヒョンのこと好きだって言ってるの知ってるのに?」




心臓が痛いくらいにバクバク煩い。
何だか喉の奥が痛みを持って渇き始めて、自分の吐息がやけに冷たく感じた。



―訳が分からない。

意味が分からない。なのに二人の会話は、嫌というほど鮮明に聞き取れてしまう。これだから世界って残酷だ。

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