どうしよう。


ちゃんと大事にしてないと、

ちゃんと優しくしてないと、君が離れていってしまうのに。


本当に、どうしよう。

どんどん、狂っていってしまう。





―OSHIOKI part2―







パシンッと乾いた音が、部屋中に響く。
上がった息のまま視線を下ろすと、頬を押さえて、信じられないという様な顔をしたソンミンがいた。


「ミニ、ねえ、分かってんの?」

「きゅ、ひょな…」

「ね、分かってないでしょ?そうなんでしょ?」



覗き込むように目線を合わせて問うと、ソンミンはふるふると震えながら、首を横に振る。
さすがに、平手打ちなんて女々しいことをする自分が嫌になるが、もうそれどころではない。

手の平がじんわりと熱くなる。
ヒリヒリと痺れるような痛みが広がっていくのに、今は、別のところが痛い。

酷く、痛むんだ。ミニ。



「ミニ、答えてよ。分かってんの?分かってないの?」

「…分かって、る…」


グイッと腕を掴むと、震える声で言ったソンミンが腕を回す。
するりとあっさり、キュヒョンの手から、ソンミンの腕が離れてしまう。
ただそれだけなのに。妙に苛立って、無意識のうちに怒声が漏れた。


「どこがだよ!!全然分かってないだろ!!!!」



ビクリと震えたソンミンの肩を強引に掴むと、力強くベットから立ち上がらせる。
思った以上に体は震えていて、「ごめん」とか、「許して」とか、出さないといけないはずの
声がどうしても出なかった。


キュヒョンはずかずかと肩を掴んで脱衣所に入る。
誰かが先程まで風呂に入っていたのか、部屋の空気はしっとりとしていて、
肺に吸い込んだ酸素までもが湿り気を帯びているような気がした。


「ちょ…キュヒョナ…」


不安そうに見つめる視線が、背中に刺さる。
ああもう、どうしよう。そんな目で見つめないで。
これから俺が、どんな酷いことするかなんて、知らないでしょ?


「ね、ミニ」


振り向いて顔の距離をグッと近づけると、眉を下げたソンミンが眼を逸らした。
長めの睫が震えているとことか、息遣いが苦しそうなとことか、確かにそれはそれで可愛いんだけど。


「ミニが分かってないなら、ちゃんと目で確認しよっか?」



小さなリップ音を響かせて耳にキスをすると、ソンミンの顔は一気に赤くなる。
瞳の奥が少しだけ滑らかになったのを合図に、キュヒョンはソンミンの服に手をかけた。


「まっ…キュヒョナ、ここ、で…?」

「…そうだよ」


やっと視線を合わせたソンミンが震えているのを無視して、キュヒョンは服を脱がす。
その最中に、くるりと体を動かして、位置を変えた。

位置的には、洗面台の鏡に、ソンミンが映り込むような形で。
キュヒョンは後ろから抱き着いて、探るように服を剥ぎ取っていく。


「え…ちょ、キュヒョナ!なんでこんな…」


もぞもぞと体を動かして位置を変えようとするソンミンを、キュヒョンは脱がしている手で制す。
不安を貯め込んだような目で見つめてくるソンミンにニヤリと笑いかけて、キュヒョンは言った。



「だって、見ながらするのっていいでしょ?」



信じられない、確かに、ソンミンの目はそういっていた。

今日の自分は変だ。信じられないようなことばかりする。
そう考えている今だって、手の動きは止めないし。

ダメだ、ダメ。気持ちが前に出てきて、どうしようもなくなっている。




「や、キュヒョナ…」


すっかり衣類を奪われてしまったソンミンは恥ずかしそうに鏡から眼を逸らす。
それじゃ趣旨が分からなくなってしまう。恥ずかしいのは分かるけれど。


「ミニ、だめ。ちゃんと鏡見て。」

「やっ…」


頬を軽く押してソンミンの顔の向きを動かすと、鏡に映り込む自分を、しっかりとソンミンは捕えた。
未だに信じられないような顔をしていて、瞬きの回数が多くなったような気がする。
さっきぶたれた左頬は、ほんの少し赤みがあった。


「…今日は、優しくできないから」


せめてもの償いのつもりで、優しく左頬を撫でてみる。
しっとりとした感触が手から全身に広がっていって、なんだかもう、頭がクラクラしてくる。


キュヒョンは何の愛撫もなしに、自分のベルトに手をかける。
小刻みに揺れる白い肩に額を当てると、ビクリとその肩が震えた。


「や、ちょ…キュヒョナ…っふあッ!?」


触れたのは、背中と肩と頬と耳。
そんな状態で、キュヒョンは自身を中に押し込んでいく。

絶対に無理だと思っていたのに、思いのほかそこは濡れていて。
少しだけ無理はあったものの、想像以上に滑らかに入り込んでいく。


「ミニ濡れてんじゃん。何?想像したわけ?」

「くはッ…ち、ちが…んッ…」

「あ、それとも何?自分の体見て?」

「ひあ…や、ぁ…んあッ…」

「はッ…やらしー…」


ゆっくりと時間をかけて入れていくと、本当にあっさり根元まで入ってしまう。
なかはいやらしく熱くて、襲ってくる締め付けに、思わず唇を噛み締める。


「動く、よ…」

「んッ…や、まっ…」


なるべく丁寧に、ゆっくりとキュヒョンは腰を動かしていく。
その瞬間、大きくソンミンの体が跳ねて、突き上げてくる快感が頭の中に響いた。
鏡を見ると、頬を赤く染めて、口を開いて、目じりを下げている色っぽい顔が目に入る。


「く…ミニ、鏡、見て…」

「あッ…やあ…んふあッ…」

「…ほ、ら、すっごいやらしー顔してる…」

「やあッ…くはッ…んあぁ…」

「ね、ほら…早く…」


耳元で小さく囁くと、催眠術にかけられたように、ソンミンは荒い息のまま鏡を見た。
涙のたまった瞳はユラユラと揺れていて、腰はいやらしく動いている。

一体どういう風に映ったのかは分からいけど、こんなの屈辱以外の何物でもないはずだ。



「んはッ…や、キュヒョナ…ひあ…」

「ミニ…腰動いてるよ」

「やッ…ちが…あッ…」

「違う?何が違うの?ちゃんと映ってるじゃん」



いつまでもふるふると首を振っている姿が癪に障る。
ちゃんと鏡を見ればすぐに分かるのに。逃げ場なんてないのに。


キュヒョンは一気にスピードを上げる。
突き上げるように腰を動かすと、ソンミンは反射的に鏡から眼を逸らした。


「くッ…ミニ、ちゃん、と、見て…」

「ふあッ…んく…ひやぁッ…」

「ね、ほら…自分だって動いてるじゃん…」

「んんッ…あッ…やあぁッ…ふッ…」

「見ないと、ダメだって…」


やわやわとソンミン自身を手で愛撫すると、赤く上気した顔が鏡の方へ向く。
鏡に映るのは、真っ赤で色っぽい表情と、くねくねといやらしく動く腰。
そして、動きながらも手で愛撫されているソンミン自身。

こんなの見たら、我慢できるわけがない。
ちょっと動くだけで喘ぎ声が漏れる薄く開いた唇とか、テラテラとした液がたらたらと伝っている
白い太ももとか。
とにかくすべてが煽っているように見える。いや、完全に煽っている。


「ミニ、太もも、垂れてる…」

「やあッ…んッ…ひぁ…」

「ちゃんと見てよ…腰動いてるし、触られてるし」

「んやあッ…あッ…ふッ…くあ…」


鏡を壊れたかのように凝視する瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
滑らかな頬を雫が伝っていって、湿り気のある空気と交る。
その姿がすごくいやらしくて思わず動きを激しくすると、一気にぎゅうっと締め付けられる。


「くはッ…ミ、二…キツ…」

「ふあぁッ…んッ…あッ…ふあぁあッ!」



さっきから意味もなく愛撫している自身はもうイッてしまって、
力の入らないソンミンの体はずっしりと重い。
とろんとかったるそうな目をしているのに、唇からは甘い声が漏れる。
そそられる。二人の吐息が混ざり合って部屋を満たして、息が苦しくなる。


「やあッ…んやッ…あッ…ひやぁッ…」

「も、ミニ…イくッ…」

「あッ…ふあぁッ…はッ…んやあぁッ…!」



息が苦しい。
濃い空気が上手く肺に流れ込まなくて、何度も呼吸を繰り返す。



「ミニ…わか、った…?」



ずるずると崩れ落ちるように、ソンミンはキュヒョンの腕から離れて座り込んでいく。
頬に残るいくつもの涙の線は、もやもやとするこの部屋の中ではよく見えなかった。


『ごめん』も、『許して』も、きっとまだまだ言えそうにないけど。



「ミニは、俺だけのものって…ちゃんと分かった…?」






他の誰かの話なんてしなくていい。

他の誰かなんて見なくていい。

他の誰かに見られなくていい。

他の誰かに触れなくていい。触れられなくていい。





愛してるから、それだけ。それだけ、なんだ。


ごめん、許して。










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