素直になれない夜。

甘い魔法にかけられて、君の愛を感じたい。


そう。今日みたいな、素直になれない夜は。





―甘い魔法―







「……」


ソンミンは絶句する。
目の前には、空になったワインボトルが2本。
事の発端はキュヒョンのせいだとは言え、いくらなんでも、やり過ぎてしまった。



元々は今日、二人で、キュヒョンがおいしいと言ったワインを飲むはずだった。
それが急に、ミュージカルの先輩との約束が入ったと言って、キュヒョンが
帰れなくなってしまった。

だから少し、ほんの少し悪戯のつもりで飲み始めたワイン。
いつの間にか、まさか2本も飲みつくしていたなんて。


ソンミンは頭を抱える。
酔いつぶれた勢いで寝てしまって、その間にキュヒョンが帰ってこなかったことは
不幸中の幸いだが、こんなつもりじゃなかったのに。
丸々2本もなくなっていては、誤魔化すこともできない。
まだ酔いが醒めていない頭では、言い訳なんて思いつかない。

テーブルに頭を突っ伏していると、不意に冷えた外の匂いがした。
仕方がない。どうなってもいい。謝るしかなかった。


「ただいま、ヒョン」


リビングのドアが開くと、ほんの少しお酒の匂いをまとったキュヒョンが言った。
ソンミンは反射的におき上がり、ボトルを隠すように体を動かす。


「お、お帰り、キュヒョナ」

「ん、ただいま」


キュヒョンはフラフラとソンミンに近づく。
入ってきたときは気づかなかったが、いつもの香水の匂いは消えて、
頭がクラクラするようなアルコールの匂いがする。


「キュヒョナ、相当酔ってる…」

「んん~…酔ってない…」


千鳥足のキュヒョンは、勢いよくソンミンに抱き着く。
その勢いに負けて、バランスを崩したソンミンの肘が、ボトルに当たって音を立てた。
まずいと思ってキュヒョンを見たときには、既に遅かった。


「あれえ?ヒョン。勝手に飲んじゃったのぉ?」


ニヤニヤと笑うキュヒョンを前に、ソンミンはどうする術もなく俯く。
完全に回らない頭で考えた嘘っぽい言い訳なんて、どこかに飛んで行ってしまった。


しばらくして、自分の膝を見つめているソンミンの視界に、キュヒョンの白い手が映る。
驚いて顔を上げると、赤くなった頬をぐだぐだに緩めたキュヒョンと目が合った。


「お気に入りのワイン飲んじゃったんだから、お仕置き、だよね?」


さっきまでの回らない呂律なんて嘘のように、キュヒョンは言った。
唖然とするソンミンのシャツのボタンに手をかけると、一つ一つ外していく。


「ちょ、キュヒョナ!待っててば…」

「だーめ。お仕置きだから、言うこと聞いてあげないし」

「キュヒョナってば…っつ!!」


あっという間に露わになった胸の突起に触れられると、ソンミンは耳まで赤く染まる。
瞬時に全身の力が抜けて、軽々とキュヒョンに持ち上げられて、床に押し倒される。


やっぱり、ワインなんて飲まなければよかったのかもしれない。


酔いが抜けない体の上を、キュヒョンの唇が這い回る。
ほんのりワインの匂いがするソンミンの肌に、キュヒョンが飲んだ
強いアルコールの匂いが移る。


「きゅ、ひょな…ん、や、ちょっと待ってって…」


ソンミンのズボンに手をかけたキュヒョンの腕を、ソンミンは必死に掴む。
上半身の愛撫だけで、こんなにもくたくたになってしまうなんて、心底、
ワインを飲んだことを後悔した。

なのに、キュヒョンは自分の腕をつかんだソンミンの手を持ち上げると、
ソンミンの頭の上に押さえつける。
楽しそうに微笑むキュヒョンを前に、ソンミンは何も言えなくなる。


「お仕置きって、言ったでしょ?」

「ちょ、ちょっと…ふぁ…」


キュヒョンの唇が、ソンミンの唇を押さえつける。
甘い匂いが口の中いっぱいに広がって、自分の舌と絡み合うキュヒョンの舌からは、
甘いような、苦いような味が伝わってくる。


瞬く間に下も脱がされると、ソンミンの頭の中は、ワインの匂いと、
キュヒョンの体温でいっぱいになる。
首筋に強く噛みつかれると、グルグルと回る頭の中は、真っ白になった。


「キュヒョナ…も、ダメ…」

「何が?何がダメなの?」

「我慢…でき、ない…」

「……どうして、ほしい?」







―キュヒョナが、ほしい






真っ白になった頭の中に、ユラユラとワインが染みていく。
酷く甘い快感の中に、ワインが溶け込んで、ソンミンを満たしてゆく。








やっぱり、たまには、ワインも悪くない。

ワインの甘い魔法にかけられて、君の愛を感じたいから。





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